浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

週刊宝島 2002年3月13日号
脱「日本病」論客たちの経済再生への提言 第10回から転載

「地方分権、経済分散が
            国の活力を生み出す」
                                                   

第10回の提言者は、宮城県知事3期目を務める浅野史郎氏。
前知事のゼネコン汚職を反面教師に、県政の徹底的な情報公開を進めた行政手腕で知られる。国政にもはっきりと意見を投げかける浅野氏に、地方の視点から、目本経済の再生策を聞<。

 日本経済全体が低迷するなか、地方を取り巻く状況はさらに厳しくなっている。地方工場の閉鎖や縮小による産業の低迷、公共事業の縮小、雇用の悪化、税収不足による地方財政の危機……。

 地方のニューリーダーのひとり、宮城県知事・浅野史郎氏が、経済再生のために日本と地方は何をすべきか論じる。

―県知事という立場に長く身を置かれて、日本経済再生のために何が必要だと思われますか。

  国全体の経済がよくならないと、地方の経済はよくならないから、国に望むことは多い。  しかし国というのは、宮城県、福島県、山形県、と全国の地方が足し合わされた集合体だから、経済だけに限らず、ひとつひとつの地方が活力をつけることが日本全体の活力になる。だから、地方が活力をつけるための方策を国と一緒に整備することが必要だと思っている。

 地方が活力をつけるために最も重要なことは、まず行政制度.政治システムの地方分権化を進めることだ。そのためには、地方独自の権限と財源をもつことだが、現状の地方と国の関係ではそれが非常に難しい。

 地方の財政は、地方税以外に、地方交付税と国庫補助金が支えている。中央省庁の力が強く、財源も中央に依存しているため、地方の行政は長年、国だのみで均一化されてきた。また、地方は財政収支が合わなくなっても、赤字国債のような借金の仕組みはなく、地方債は公共投資の財源に限定されている。地方税を上げると、住民が周辺地区に移動するというような解決しがたい問題もある。

 このような制約のため、地方が財源をもって独自に行政運営を行なうのは難しかった。が、その制約に地方が甘んじていたことで、長年、分権が実現しなかったとも言える。

しかし、地方の活力が落ち込めば、国の活力も落ち込む。すぐに結果につながらないかもしれないが、地方分権を進めることは、地方のためにも国のためにも重要だと思う。

補助金の種類が多すぎる

―地方分権を推進するというのは、具体的には税制を変えるということでしょうか?地方交付税や補助金を減らすと困る自治も多いのではないですか。

 地方財政はその地方の税金で賄うのが理想だが、そんなことは不可能だから、国と地方の財政調整をする必要がある。地方交付税は、各地方の立地や歴史的な成り立ちを考慮して国から分配されるものだから、必要なのは当然だ。ただし、その配分ルールは公正にしなければならない。

 一方、中央省庁の予算から目的を決められて地方事業に配分される補助金には大きな問題がある。

 まず数が多すぎる。中央集権制が厳しいフランスですら40種類ほどだが、日本は省庁合わせて3000種類以上の補助金がある。つまり地方は、中央省庁の施策に沿って、横並び、均一化された事業を行なっていることになる。これでは地方が活力 をつけられないし、地方行政が国の補助金だのみになるばかりだ。補助金の制度は、抜本的な見直しが必要だと思う。

 幸いなことに小泉改革には、地方分権へのアクションがある。昨年6月に行なわれた地方分権推進委員会の最終報告には、国税から地方税への税源移譲が明記されているし、税 制改革のなかでも課題として取り上げられている。地方分権とは、地方自身の活力で伸びていくことを制度上で助長する仕組みなのだから、最終的には大きな国益につながる。小泉総理がこうういう着眼点で改革を進めていかれるならば非常にいいことで、期待している。

―地方分権を進めれぱ、政治的には地方の力が強まりますが、実際に地方の経済を発展させるという面ではどうでしょうか。

 経済の面でも、地域ごとに経済活動を盛んにする。つまり経済の分散化をすることも課題だ。

 しかし、経済振興といっても、何でもいいから地域の産業が盛んになればいいという考え方ではダメ。これまで地方は、職種、規模を問わずに企業誘致を行なうことが多かった。土地が安い工業団地を用意する、税金や水道代を優遇する、人件費の安さをウリにする。しかし、今やそういうことだけをウリにしていては、中国や東南アジアに負ける。

 だからこれからは、産業振興のたのに企業を誘致するなら、なぜその地方なのかという必然性を作らなければダメだ。その地方ならではの得意科目を作らなければ、生き残っていけない。そうすれば必然的に情報が集まり、関連企業が集まり、そして未来性が生まれる。地方が経済の活力を持つには、そういった産業振興が必要になる。

必要なのは補助金ではない
産業・行政の成功事例の情報開示だ

地域ごとに得意分野を

―例えばどういうものでしょうか。 宮城県では具体的に何か考えておられますか。

 宮城県では現在、「食材王国」「IT」「バリアフリー」「環境」という4つの分野の産業振興を考えている。  例えばITは、地域格差を超えるものだと位置付けられているし、どの地域でも掲げそうだが、宮城県には、ITの最先端の研究が行なわれている東北大学があるというアドバンテージがある。東北大学は、光ファイバーの発明者である西澤潤一先 生ほか、優秀な研究者が集まっており、産学官の連携も進んでいる。研究開発のスピードも速い。これが大きなウリだ。

 また、「食材王国」は宮城である必然性を今後、仕掛けていく予定だが、デパートの催事場でやっているような県産品を売り込むことを目的にしてはいない。地理的に海の幸・山の幸に恵まれていることを生かしながら、新しく2次産業、つまり惣莱を加工するなどの食品加工会社を集めることを考えている。原材料が適時・的確に集まり、情報が集まり、下請け業者が集まるようにし、総合力を持たせたい。それには、行政が旗振りをしなくてはならない。昨年は若手料理人による料理コンテスト「食の甲子園」というイベントを行ない、宮城のにぎわいを演出した。

 地方経済の活性化には「何でもあり」や「横並び」はダメだと考えている。得意科目を必死になって作る努力が必要だ。

―地方間でも競い合って、産業を 発展させなけれぱなりませんね。  

これまで宮城県が競う対象にしていたのは山形県や福島県だったが、これからは中国やアジアとも競い合わなければならない。例えば、農業分野での中国の日本進出はすごい。国産と同じような品質に見える中国産のネギが、国産より数割安く売られている。これと競うには、生産者の顔を見せる、産地や農法の情報を公開して安全性をアピールするとか、そういった努力も必要になる。

 行政の方でも、その地方の産業を守り、発展の後押しをするために、何をすべきかということを考えなくてはならない。

 今まで長年、産業振興のために国と地方がやってきた手法は、事業に補助金や融資をすることだったが、本当に必要なのは、国がただお金を出すことではない。地方行政が産業振興の成功実例の情報を持ち、その情報を広く提供することだ、地方行政がそういう旗振りの役割を持つとが、地方分権であり経済分散につながると思う。

―地方の行政が活力を持って、その地域の経済を振興する役割を果たせば、日本全体の再生にもつながるでしようか。

 地方がそれぞれ個性をもってやるということを名実共に実現すれば、日本を活性化させる原動力になると思う。政治的には、すでに地方が国に先んじて行なった制度やパフォーマンスはたくさんある。住民による政策評価、情報公開、選挙の無党派の流れ……これらは、中央からやりなさいといわれたものではなく、地域レベルで悩み、苦しんだ結果出てきたものだ。それが国の最先端を行く制度や運営になっている。

 国が一律に何かを決めて、うまくいかなかったら全国的に失敗する、などというリスクは、もう負わなくてもいい。地方に責任を持たせ多様にやらせて、それを国が分析し、成功や失敗を公開する。

 今後、こういった国のあり方が地方を活性化させ、集合体である日本に活力を与えることになると思う。

「政治と経済の中央集権システムが 地方の活力を奪い、日本経済を低迷 させる結果になっている」と主張す る浅野氏。「地方分権を進め、地域 を多様化させることが、長い目でみ た国益につながる」と言う。国が地 方を管理し続けたツケは、あまりに も大きいようだ。

TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org