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2006年11月6日
朝日新聞 
時流自論  
執筆原稿から


談合防止へ究極の処方箋は

 福島県で、現職知事の弟が談合にかかわった疑いで逮捕され、知事を辞めた佐藤栄佐久容疑者の逮捕にまで発展した。和歌山県でも、出納長が官製談合への関与で逮捕された。事実関係を追う中で、どうすれば再発を防げるのかの処方箋も書けるような気がしている。

 まずは、公共工事における談合への罪の意識が希薄なことに気がつく。誰でもやっている、見つかるヘマをしただけ。被害者がいない。スピード違反に似ている。その程度の認識が、業界内部だけでなく、工事発注の官側においても一般的である。被害者である納税者の一部でも、談合は、「仕方がない」、「業界保護が大事」、「地域の景気と雇用の安定のために必要」といった受け止め方がされてしまう。

 談合はれっきとした犯罪である。納税者が被害者である。談合を断固排除するという強い意志と方法論が発注者である役所側になければならない。

 

 宮城県知事をやっていた時に、官製談合事件が発生し、職員の中に逮捕者も出した。県議会議員も複数逮捕された。その時の衝撃と反省もあり、入札制度の改革に乗り出した。改革で最も大きな効果を示したのが、一千万円以上の工事は一般競争入札に付する原則である。誰が入札に参加するか見当がつかないという一般競争入札なら、限られた仲間だけの談合は、そもそも成り立たない。

 結果として、05年度の宮城県発注工事の平均落札率は74.9%。長野県の74.8%に次いで全国第2位の低さである。落札率が95%を超えるものを「談合疑惑あり」とした「談合疑惑度」では、トップの北海道が84.3%であるのに対して、宮城県は0.9%と最も低い。理由は極めて単純。宮城県と長野県だけが1千万円以上の工事を一般競争入札に付しているのに対して、一億円より上に基準点を設定している都道府県が41もある。なかでも北海道、福島県を含む13道府県は24億3千万円以上であった。

 「原則一般競争入札」とすると、反論が出てくる。役所の手間ひまがかかるというのが一つ。これは宮城県の例を見れば、大問題ではない。もう一つが、「地元事業者の育成」の名の下の「地域限定型入札」である。地元業者保護に見えるが、この保護政策により、本来市場から退場するはずの競争力の弱い業者も温存される結果になり、長い目で見れば、県内業者全体の競争力の低下をもたらす。

 ダンピングによる工事の品質の低下を問題として挙げる人もいる。「安かろう、悪かろう論」である。しかし、高く落札した工事でも、品質の悪いものが一定割合ある。その割合は低い落札の工事との有意の差はないというのが、宮城県での実績であった。だとすれば、問題は落札率の低さではなく、品質管理の問題になる。これには役所側の手間ひまと技術力がいるが、入札制度がどうであれ、やらねばならないことである。

 談合では天の声が必要である。福島県の場合は知事の弟や後援会の幹部、和歌山県では出納長がそうであったとされる。業界は、血眼になって天の声を発する人物を探している。側近の脇が甘ければ、業界の仕切り役ハンティングにつかまってしまう。仕切り役になってしまえば、それなりに魅力的である。権限を行使でき、裏金のキックバックもある。こうして、「必要悪」としての談合における、「必要な配役」が決まる。

 

 ここまで見てくれば、知事など自治体のトップが、公共事業の発注に関わらない、業界との宴席に出ないという程度の「けじめ」では、談合は根絶できないことは理解できるだろう。トップは、まず、入札契約制度の策定に指導力を発揮しなければならない。そして、側近や役所の職員に対して、談合に関わることを絶対に許さないという命令を明示的に発することが必要である。その姿勢を、取り巻き、側近にも理解させ、そのように行動させる義務がある。

 トップの姿勢がそうならないとすれば、原因は選挙に求められる。選挙で建設業者にカネ、人、車、票を出してもらって、業者に喜ばれない入札制度の改革ができるかどうか。もっと生々しく言えば、「選挙には金がかかるもんだ」と信じて、実際にそのように行動する知事陣営とすれば、その原資の調達を談合仕切りの見返りに求めることは、現実的な発想である。現に、福島県知事選挙で起きたことはそれにピッタリの図式であった。

 結局のところ、選挙をまともなものにしなければならない。「選挙には金がかかるもんだ」とか、「政治とはしょせんこんなもんだ」とか、「知事とはこういうもんだ」とか言いつのる人たちを、私は「モンダの人々」と呼ぶ。彼らの語る業界の「常識」に身を任せてはならない。改革とは、そういう「常識」に反論し、行動することにある。私自身の3回の知事選挙において、建設業界だけでなく、すべての有力団体の推薦を受けない姿勢を貫いたが、その理由はこういったことにもあった。

 やはり、「選挙は大事」という原点に戻ってしまう。選挙をまともにやることも、業界の「常識」に抗していくことも、側近にいい加減なことをやらせないのも、結構身体を張った荒業である。そのことを、いまさらのように思い返している。



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