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2006年11月25日
河北新報 
 
執筆原稿から

「甘さ」が生む官製談合

選挙の貸し借り・側近・県庁の姿勢
三つの要因排除カギ


 全国の地方自治体で、知事までも巻き込んだ「官製談合」の摘発が続いている。3期12年、宮城県知事を務めた経験に照らして、官製談合の背景、原因を探ってみたい。

 選挙、側近、発注者側の姿勢ということが、まず、頭に浮かぶ。私が知事になったのは、13年前、現職知事がゼネコン汚職で逮捕された後の「出直し知事選挙」においてである。その際に、前知事は、県政の土壌に咲いた仇花と考えた。土壌改良をしない限りは、私も仇花として摘み取られてしまう。その土壌は、選挙の際の貸し借りなど、ドロドロした人間関係のしがらみからできている。となれば、選挙のあり方を変えるしかない。

 「選挙が終わったら、敵よりも味方が怖い」、「選挙のありようが、その後の任期のありようを決める」とも実感した。「選挙には金がかかるもんだ」、「選挙では、政党、団体の支援を受けるもんだ」と物知り顔で説く「もんだの人々」に向かって、「それって、おかしいぞ」と言いながら、選挙のありようを変えることこそが「改革派」のゆえんだという自負もあった。選挙で、のっぴきならない貸し借り関係を作ってはならない。知事を巻き込んだ、今回の一連の談合事件は、直前の選挙のありようの反映であることは、誰の目にも明らかであろう。

 次に、側近の存在。知事のクリーンさは、側近をも含んだものでなければならない。「談合許すまじ」は、側近に誤解の余地なく理解させ、その方向に沿って行動させてこそ完成する。「天の声」を発し得る人を必死に探している業界関係者にとっては、側近は格好の標的である。側近の脇が甘ければたちまちつけこまれる。私の場合は、仕切り役、汚れ役としての側近とは正反対の、T氏という蹴散らし役、嫌われ役がいたために、業界につけこむ余地を与えないで済んだ。

 三つ目の要因が、県庁組織の談合に対する姿勢の甘さである。談合は、地元経済の活性化、雇用の確保、地元企業の育成にとって、必要な算段だぐらいの認識では、官製談合に一直線である。談合は必要悪にあらずして、納税者が被害者となる犯罪である。地元企業の育成の名の下に、県外業者を締め出す地域限定の入札では、短期的な効果はあるかもしれないが、中長期的には県内業者全体の競争力の低下をもたらす。

 このように原因を分析していけば、官製談合を、単純に「多選の弊害」で片付けられないことがわかるだろう。官製談合をやっている知事は、一期目からやっている。 再発防止は、上記の一つひとつをつぶしていくこと。選挙を変える、側近も含めてクリーンに、県庁組織の意識改革も必要。もう一つ、制度の面もある。つまり、入札契約制度を改革して、談合をできなくすることである。宮城県でやったように、一般競争入札を原則とするのが、最も基本的な改革であり、最も効果がある。

 すべてを通じて言えるのは、納税者たる県民が、県政をしっかりと監視すること、関心を持つこと、行動することである。その意味では、出直し知事選挙は、ものすごく重要である。候補者選びの段階から、選挙をどのような図式でやられるか、県民は注視する必要がある。今までと同じような選挙であれば、誰が選ばれようと、また同じことを繰り返す可能性は極めて高くなることを、肝に銘じるべきであろう。



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