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厚生福祉 2007年1月23日


障害者の就労


 障害者自立支援法による本人一割の応益負担が、「おかしい」、「重度障害者に厳しい」と批判されている。障害者が、1カ月間作業所なり授産施設に通って仕事をして、1万円にならない賃金なのに、食費も加えると1万円以上の自己負担になるのは、確かにおかしい。しかし、おかしいのは、自己負担が多いことよりも、1カ月働いて1万円にもならない賃金であることに気がつく。

 作業所、授産施設の運営をする人たちは、福祉の専門家であるだけでなく、ものづくり、仕事探し、経営、営業の専門家であることも求められる。それが、障害者の就労を支援する障害者自立支援法の精神である。だったら、そういう専門性はどうやって身につけるのかが問題とされなくてはならない。兜沁ャxンチャー・パートナーズ(大塚由紀子社長)は、このことを強く意識して設立された会社である。障害者の働く場を運営したいという人たちのための「福祉企業家経営塾」を開催している。

  その第3期生9人の卒塾式に招かれて、アドバイザー役と講演の講師を務めてきた。全国各地からの受講生は、安くはない受講料を払って、1日7時間の講義と実践を4ヵ月続けた。確かな目的意識があるからこそ耐えられる厳しい指導内容であり、卒塾のためには収支予算案を含む事業計画を作成する必要がある。卒塾生の発表した事業計画の中から、実践がいくつか始まるはずである。

  ヤマト福祉財団は、「スワンベーカリー」で障害者雇用を積極的に進めている。卒塾式では、スワンベーカリー十条店の小嶋店長から、月に12万円払っているとの報告があった。ふつうの会社での一般就労もどんどん増やすことも求められる。ヤマト運輸のメール便では、600人以上の障害者が配達業務に従事して、月に数万円を得ている人も出ているとのこと。

  福祉の仕事は、福祉の分野だけで自己完結はしない。企業活動にまで広げていくことが必要である。福祉の専門家には、この部分が不足していた。まずはそのことを自覚し、障害者の就労の実績をあげていくことがとても大事である。就労の姿は目に見える。それが世の中を変えていく起爆剤になることにも思いをいたすべきである。


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