浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

2008年10月24日
自治日報

健全化法の施行B
《自治》執筆原稿から

財政健全化法を活かす情報公開

 総務省は、9月30日、全国市町村の07年度決算(速報値)を公表した。

 「自治体財政健全化法」に基づく新基準の適用が始まるのは、08年度決算からだが、今回の数字をそのまま当てはめれば、北海道の赤平市は財政再生基準(破綻基準)を上回って、赤信号が点滅する。また、40市町村が、早期健全化基準を超え、黄信号が灯っている。

 昨年、夕張市が財政再建団体になった。厳しい財政再建計画の下で、財政再建に乗り出すことになったが、この措置は、旧法である「地方財政再建促進特別措置法」に基づくものであった。夕張市は、「隠れ借金」など、さまざまな「お化粧」をほどこしていたために、財政再建団体の認定が遅れた。実態は、財政破綻状態であったにもかかわらず、なぜに、事態が明るみにでるのが、これほどまでに遅れてしまったのか。まずは、そのことが解明されなければならない。

 直接的な責任は、市長以下、夕張市当局にあることは、言うまでもない。夕張市議会の責任もある。夕張市の財政が、とんでもなく悪化していることに気がつかなかったとすれば、よほど無能な議員の集団であった。気がついていて、そのことを市民に公開し、市当局に善処を求めるという動きをとらなかったとすれば、議会としての職務怠慢である。いずれにしても、チェック機関としての役割を、夕張市議会はまったく果たしていない。

 財政再建団体に認定される指標が、普通会計の赤字だけを対象とする実質赤字比率であったことも、制度の不備であった。このことが一因となって、「財政健全化法」ができたのであるから、新法は、「夕張ショック」がもたらしたものと言うこともできる。「連結実質赤字比率」、「実質公債費比率」、「将来負担比率」が、自治体の財政健全化を判断するための基準として、導入されたことは、自治体財政悪化の兆候を早期に発見のために、意義が大きい。

 「夕張ショック」は、住民にとっても感じられた。地方自治体も財政破綻するということを、改めて目の前に見せてくれたという意味である。「だったら、うちの町は大丈夫だろうか」といった関心が生じる。冒頭に紹介した総務省により公表された決算の数字を見て、「赤信号」、「黄色信号」が出された自治体の住民は、黙ってはいないだろう。「何とかせよ」と自治体に迫るし、地方議会をたきつける行動に出ることになる。

 自治体財政の状態について、わかりやすい指標が示されることで、住民の関心が高まる。情報公開の意義である。住民に理解されやすい、わかりやすいということも、情報公開の大事な条件であるが、単なる広報とは違うこともわきまえる必要がある。

 広報する主体は、自治体である。虚偽の情報は出さないまでも、都合の悪い情報は、なるべく伏せておこうとすることは、十分にありうる。出したい情報だけ出すのが広報、出したくない情報も出てしまうのが、情報公開。財政悪化に陥った要因、職員の給与水準、給与外手当ての実態、天下りの実績などなど、関連する情報は、住民側が求めなければ得られない。

 住民が情報公開を迫る動機付けとしては、自治体の行動を変える可能性が認識されていなければならない。つまり、情報のためだけの情報ではなく、職員の給与水準が下がる、天下りが禁止されるといった成果が期待されなければ、情報開示を迫る気持ちなど起きないだろう。都合の悪い情報が明らかになってしまえば、地方議会としても、自治体の政策変更を迫らざるを得なくなる。今までは、表に出ないか、難解過ぎた自治体の財政情報が、財政運営の本質にまで近づくようなわかりやすい情報が開示されることによって、自治体財政の議論における新しい水平線が開けてくる予感がする。

 「財政健全化法」が、ほんとうの意味で機能するためには、情報公開の徹底が絶対の要因であることを理解する必要がある。