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2009年2月13日
自治日報

《自治》執筆原稿から

地方分権改革の行方

 地方分権改革の行方 地方分権改革は、今後、どういった方向に進んでいくのだろうか。昨年12月には、地方分権改革推進委員会の第二次勧告が提出されたが、その内容がどの程度実現に向かうのかは、未知数である。そもそも、政府としての取り組む姿勢がはっきりしないし、実現の意欲が見えてこない。

 第二次勧告の内容としては、「義務付け・枠付けの見直し」と「国の出先機関の見直し」の二本柱である。前者は、地方政府の確立のためには、立法権の分権が不可欠という観点から、自治体の条例制定権の拡充を求めての提言である。政策・制度についての、自治体の自由度を拡大し、自治体の責任において行政を実施する仕組みにつながる。機関委任事務が廃止され、自治体の事務としては、原則として自治事務とすべきことが確立したのにもかかわらず、国は自治体に対して、個別の法律でさまざまな規制をかけてきた。それを改めようというのであるから、私としては、極めてまっとうな改革として評価するものである。

 条例制定権の拡大ということで、私が特に期待しているのは、地方議会の役割が大きくなることである。最近の傾向として、地方議会における議員提案の条例成立の例が増えているが、その流れがますます加速することが期待される。先進的な地方議会にとっては、出番到来である。

 このまっとうな改革が現実のものになるかどうかは、09年度中に国会に提出される「地方分権一括法案」において、具体的な条項がどう改定されるかにかかっている。霞ヶ関のまじめさが問われるわけだが、予断を許さない。各省がサボタージュをしないように、地方自治体側から圧力をかけ続けなければならないし、マスコミを通じての国民の監視も緩めてはならない。

 今後の実現の見通しということでは、国の出先機関の見直しのほうが、もっと大変である。勧告が出された時点で、霞ヶ関連合軍の抵抗は既に表面化している。出先機関の見直しは、霞ヶ関の聖域ともいえる組織・定員に手をつけることである。35,000人の定員削減の数字が示されたが、霞ヶ関流の事前調整の手続きもないままになされたこともあり、関係各省からは、驚天動地、不快感一杯で受け止められた。

 出先機関の見直しは、歴代内閣でも、ほとんど手がつけられなかった難題である。どんな形の見直しでも、霞ヶ関の抵抗は大きく、各省と相談づくで解決がつくような問題ではない。かといって、今回のような唐突な宣戦布告、全面戦争では、全部いいか、全部ダメという結果になる可能性が大である。

 「全部いい」とするためには、内閣総理大臣の強力なリーダーシップがなければならないが、現下の情勢では、期待薄と言わざるを得ない。

 私として、今、大きな期待を持っているのは、第三次勧告に盛り込まれるであろう、国から地方への財源移譲である。尻すぼみに終わってしまった三位一体改革の敗者復活戦と位置づけている。私が現職の知事時代の三位一体改革の「第一幕」の決着については、補助金廃止でなく削減、地方交付税の見直しでなく5兆円超の減額といったまやかしがなされ、心底失望した記憶が生々しい。今度の勧告では、地方財政自立改革という趣旨をはずすことなく、きっちりした内容でなければならない。

 懸案山積の地方分権改革である。今度こそ、国民を味方につけなければ実現は覚束ない。内閣総理大臣のリーダーシップに大きな期待が持てない中では、分権改革委員会、全国知事会をはじめとする地方六団体の政治力に期待したい。最後のチャンスである。その意味で、外野からではあるが、地方分権改革の行方に大きな関心を持ち、これからの動きをしっかり見守っていきたい。


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