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2012年2月10日
自治日報
《自治

執筆原稿から

日本の財政危機

 欧州財政危機は、国債残高が1000兆円に迫る日本にとって、対岸の火事ではない。国債残高が、対GDP比212%というのは、ギリシャをはるかに超えるレベルである。ギリシャは、EUにとどまるために、厳しい財政再建策をとることを余儀なくされている。当分は、ギリシャ国民は、厳しい耐乏生活を送ることになるだろう。

 日本は、ギリシャのこの姿を他山の石とすべきであり、「明日はわが身」と覚悟を決めなければならない。いつ国債が暴落し、その後のハイパーインフレを招くか、決して楽観できない。今すぐに、徹底した財政再建の方策をとるべきである。それには、厳しい歳出削減しかない。平成24年度の政府予算案は、むしろ、財政悪化を促進するような内容であることに唖然とする。

 日本の地方自治体には、財政再建を強いる存在があるのに、国にはそういった存在がないために、今日の危機的財政状態を招いてしまった。むしろ、国が自治体財政をモデルにすべきでないのか。

 財政運営に関しては、自治体のほうが優れているということではない。財政破綻の可能性を最小にするシステムが、自治体には備わっているということである。自治体は赤字地方債を原則としては発行できない。赤字地方債が発行できないことが、放漫な歳出構造を生み出すことを未然に防いでいる。その結果、際限なき借金の積み上げからも免れている。

 1966年、佐藤栄作内閣において、戦後初の赤字国債が発行された。ここで財政規律が緩んだ後は、均衡予算主義など忘れられた。1975年以降、日本の財政は完全に赤字国債依存体質となり、そこから抜け出せないでいる。

 2007年の「自治体財政健全化法」は、自治体財政の実質赤字比率、実質公債費比率が一定以上になった自治体を、国は、それぞれ、「早期健全化団体」(財政破綻懸念)、「財政再生団体」(財政破綻状態)に指定した。財政破綻状態になった夕張市は、市役所職員の削減、小中学校の統合、保育所の廃止などを含む、厳しい再生計画を策定し、国、北海道の厳しい監督下に置かれている。

 本来必要だったのは「国家財政健全化法」ではなかったのか。「自治体財政健全化法」の基準に照らせば、国は完全に財政再生団体となる。一方で、自治体には、この法律で「財政健全化に努めるべし」と命ずることは、ダブル・スタンダードそのものである。

 国と地方自治体の財政を同一に論じるつもりはない。財政の仕組みも違うし、収税力も違う。国は、いざとなれば、日銀券を増発して、借金を返せる(そんなことをすれば、ハイパーインフレを招くのは免れないが)。増税だってできる(今の政局を見れば、簡単にできないことは明らか)。しかし、その前に、国が破綻自治体にやらせたように、大幅な歳出削減をやらなければ、どうにもならないというのは、誰の目にも明らかである。この点では、国も地方自治体も同じ運命である。

 ギリシャにはEUの存在がある。日本の地方自治体には、国が目を光らす。放蕩のどら息子に対する雷オヤジの役回りである。国にとって、これらの存在にあたるものは、なんだろう。国会があてにならないのは、今、われわれは目の前で見ている。結局は、有権者たる国民に、ガミガミ言うオヤジの役を期待すべきなのだろうが、国民が立ち上がる気配が見られない。民主主義は、国の財政規律の保持には、無力なのだろうか。

 あきらめてはいけない。ギリシャを見ろ、夕張市に行け。明日はわが身とする感覚を国民全体に求めたい。


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