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2012年4月20日
自治日報
《自治

執筆原稿から

基礎自治体が自治の中心

 自治体とは、そこに暮らす住民が近隣と一体感を持って定住する空間である。一体感にはいろいろな形があるが、コミュニティとしての仲間意識、歴史、文化、祭りの共有、自然空間としてのまとまりとして感じとられる。基礎的自治体は、府県に比べて区域、人口が限られており、住民の間の一体感にはより強いものがある。だからこそ、基礎自治体こそ自治体としての本流ということになる。

 このことを前提にして、最近の自治体をめぐる動きの中で、「基礎自治体が基本」という原則が揺らいでいる状況について概観してみたい。

 東日本大震災の被災地の復興から考えていこう。災害の甚大さ、広がりからいって、復興を基礎自治体だけで担うのは無理であるとしても、復興計画を策定し、実施していくのは基礎自治体でなければならない。県や国は、主として財政的な支援に回り、基礎自治体が自らやろうとしていることにあれこれ口を出すべきではない。

 財政的支援で気になるのは、復興庁が差配する復興交付金に「査定」がついてまわり、「不要不急の事業には予算つけない」などと大臣が言明していることである。時間との戦いである非常時に、被災地で「不要不急の」事業を実施しようという基礎自治体があるはずがない。どの事業が優先されるべきか、一番わかっているのは、被災地現場の基礎自治体である。復興交付金は一括して交付し、復興のための事業のどれにも宛てることができるようにしなければならない。そうすることによって、被災した基礎自治体は、自らの判断で優先させるべき事業を執行していくことになる。国、県には、基礎自治体に任す、信じるという姿勢が求められる。

 原発再稼動における基礎自治体の位置づけについても一言。再稼動するにあたっては、電力会社との協定で、立地自治体の同意を得なければならない。福島第一原発事故以来、究極の迷惑施設と化した原発の再稼動が、立地自治体からの同意を簡単に得られるはずがない。首長が同意しても、住民の大多数が「ノー」と言えば「自治体の同意」とはならない。基礎自治体の役割、重要性が、この場面では極めて大きなものとなる。

 大阪都構想について。大阪市の24区を8特別区に、堺市の7区を3特別区にまとめ、大東市など9市をそれぞれ特別区に改編する。大阪市、堺市という基礎自治体をばらばらに分割し、それぞれ8特別区、3特別区という新しい基礎自治体を創設する。冒頭に書いたように、自治体は住民の間の一体感で成り立っている。大阪市、堺市がなくなり、住民が選択したわけではない新しい特別区が基礎自治体として創設される。自治体としての一体感はどこに行ってしまうのだろうか。これで地方自治は正常に機能するだろうか。

 再編される基礎自治体の主要財源である固定資産税、所得税の法人分が大阪都に移管され、大阪市、堺市の事務事業の多くが都に移管されることをどう考えるか。権限、財源を国から府県に、府県から基礎自治体へという地方分権改革の流れとは逆の流れである。

 道州制について。47都道府県が廃止されて、法律で10程度の道州が創設される。自治体とは、住民を含む関係者が主体的に作り上げていくものであるのだが、そういった契機がなく、法律で創設される道州が、自治体として歴史的、社会的、文化的に一体感を持った存在になれるはずがない。

 道州の創設は、基礎自治体の新たな合併を伴う。平成の大合併の余波がまだ収まらない中で、さらなる大合併は現実性がない。「道州制では基礎自治体の規模は30万人程度が適当」といった数合わせによる合併でできる基礎自治体の多くは、自然環境や域内交流を無視した、いたずらに広いだけの自治体とならざるを得ない。そういった基礎自治体が、自治体本来の力を発揮できる可能性は少ない。

 まとめとして、基礎自治体がそこに暮らす住民の一体感を基本とした存在であるという原点を忘れてはならない。改めて、地方自治の現場では、基礎自治体が最先端であり、中心であるということを確認したい。


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