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2014年6月27日
自治日報
《自治

執筆原稿から

学生と地方議会

 「地方自治論」を大学で講じている。毎年一回、地方議会の議員をゲストとして招き、ミニシンポジウムをやってもらう。授業後に回収する学生のコメントシートに書かれていることには、毎年、決まったパターンがある。「議員がこんなにいろいろ活動していることを初めて知った」、「こんな立派な議員ばかりだったら、どんなにいいか」、「今度、議会の傍聴に行ってみたい」。

 この授業の前には、議会議員と行政の職員との区別もついていない。議会があることすら知らない。議員が何をしているのかは、全く知らない。そんな学生が多い。それだからこそ、議員を呼んでの授業は、驚きと発見の連続である。

 学生が、特別に無知なのではない。一般住民だって、地方議会のことについては、無知、無関心であることは、学生と変わらない。何故そうなのだろうか。無知、無関心を嘆く前に、それを考えるのが先だろう。

 学生のコメントには、「議会は、住民に向けて、もっと広報をすべきである」、「議会としての活動を活発にすべきである」といったものが、とても多い。これも変な話である。そもそもが、議会なんてあってもなくても、自分たちの生活には何も関係ないと思っている学生たちである。今さら広報で知っても、「へー」と驚くようなことはない。

 簡単にいえば、地方議会に存在感がないということである。たまに注目されるのは、議員が入札談合に介入したとか、議会内会派の団体が外国への視察調査の名目で、観光旅行をしたとか、そういった負の側面だけである。これでは、学生に、「議会があるとは知らなかった」と言われても仕方がない。

 どうしたらいいか。議会が目立てばいいのである。議会が本来の役割を果たしていれば、自然と目立つことは誰にでもわかる。「議会は行政のチェック機関」というのであれば、行政のやり方をチェックしたらどうか。不要な又は縮小すべき部署はないか。余計な人員が配置されていないか。行政の施策をチェックする「事業仕分け」をやったらどうか。理想を言えば、行政の無駄を削って予算を恒久的に削減し、その結果として地方税引き下げ条例を提出したら、住民から拍手喝采であろう。

 住民が注目する事案に、議会として独自の提案を行うのも有効である。先般、60を超える市町村議会が、安倍政権が推し進める集団的自衛権の行使に関する憲法解釈の見直しに対する意見書を、国会や安倍首相に送った。すべて、反対か慎重な対応を求めるものである。

 何年後かに、憲法改正の発議がなされ、国民投票を目の前にしたときに、地方議会は黙っていていいのだろうか。自治体住民に向けて、議会としてまとまって、何らかの行動は起こすべきである。先の話とはいえ、今からその練習はしておくべきだろう。

 原発再稼働の是非について、原発立地自治体の住民がどう考えているか、そこの議会は、積極的に住民の意向の把握に努めるべきである。原発安全協定に基づき、再稼働を求める電力会社が、知事に同意を求めるアクションを起こしたときに、地元の議会としても、独自の対応をするべきである。そうでなければ、二元代表制が泣く。

 議会が独自の対応をする前提としては、地元住民の意向を前もって把握しておかなければならない。各ご家庭への「ご用聞き」さながらに、住民の意向を膝詰めで尋ねて回るのは、議員として、この際自分の役割と思い定めて、活動開始である。

 知事が変な動きをすることがある。市長が住民に説明できないことをすることがある。その際に、住民の立場に100%立って、首長と対峙するのは議会である。市民オンブズマンなどの市民団体にお株を奪われていないか。恥ずかしい。

 私の「地方自治論」の授業では、こういったことを学生にわかりやすく講義している。学生が社会に出て行く頃には、地方議会に対して、授業で習ったとおりの対応をすることを期待しながら。


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